臓器移植において、移植前に少量のドナー血液をレシピエントに注入し、免疫不応答状態を誘導する方法、即ちDST(donor specific transfusion)は、実験的に免疫寛容を誘導するモデルとして古くから知られており、このメカニズムを解明する事は臨床臓器移植において免疫寛容を実現する上で貴重な情報となると考えられる。 本研究では当初はこの機序が胸腺細胞のclonal deletionに因るものと仮定し、これにアポトーシスが関っているか否かを証明する事を目的とした。ラットを用いDSTが肺移植片生着延長に有効である事を証明した後、DST群・非DST群の胸腺のアポトーシス発生の状態をTunnel法を用いて免疫組織学的に評価を行ったが、両群間に差は認めなかった。加えてほぼ同じ実験モデルに添った研究成果が英文誌に公表された為、本研究は方針を再考する必要に迫られた。 よって後半年度ではDSTの免疫制御力がTh2clone増殖に伴うSuppression mechanismによるものではないかと推測し、まずDST以外の方法でより強いT cell suppressionを発生させ寛容を誘導する方法を用い、寛容が誘導できるか否かを検討する事と方針変更した。CTLA4Igはco-stimulation signalをブロックし、T cell分化をTh2優位とし、Suppression mechanismを発揮する。CTLA4Igの肺拒絶反応抑制効果は現在まで全く報告が無かったが、今回の検討ではMHC不一致Rat間の肺移植において、対象群では全例が術後1週間以内に移植片脱落を来すのに対し、CTLA4Ig投与群は約50%の症例で3ヶ月以上の著しい生着延長が得られた(発表準備中)。今後はCTLA4Ig作用のメカニズム解析、メカニズムのDSTとの比較、DST+CTLA4Ig併用の効果、などを検討する予定である。
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