研究概要 |
脳虚血後の神経回路再構築及び学習行動障害に対するプロサポシン関連ペプチドの効果を解析するためには、まず脳虚血後に一次病変が出現したあとで二次病変が進行する時期を確定しなければならない。さもなければ、プロサポシン関連ペプチドの効果が一次病変に対するものなのか、それとも二次病変に対するものかも決定されず、ひいては二次病変阻止のためのプロサポシン関連ペプチド投与スケジュールも定まらない。そこで、本年度はまずスナネズミの3分間前脳虚血モデルを用いて、海馬CA1領域の神経細胞数計測とTUNEL染色を指標にすることにより同動物の二次病変出現時期を確定した。スナネズミに3分間の前脳虚血を負荷すると、1週間後に約半数の海馬CA1錐体神経細胞が遅発性神経細胞死により脱落消失することが確認されたので、この時点で一次病変が確立するものと思われた(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95,4635-4640,1998)。一方、3分虚血負荷1週間目に一見生存していると考えられた残り半数のCA1錐体神経細胞にTUNEL染色を施すと、多くのTUNEL陽性神経細胞が検出された(J.Exp.Med.,188,635-649,1998)。従って、3分虚血負荷後1週間目にはすでに海馬CA1錐体神経細胞が二次変性に陥っていることが推測された。そこで、さらに3分虚血後3日目にもTUNEL染色を実施したところ、虚血一週間目で変性脱落すると考えられるCA1錐体神経細胞(すなわち一次虚血病変に相当する細胞)にも、TUNEL陽性所見が検出された。おそらく、3分虚血負荷後3日目には一次虚血病変は非可塑的な変性過程にあることが推測された。以上のことより、3分虚血負荷後、3日目にプロサポシン関連ペプチドを投与すれば一次病変に対する効果はみられず、二次病変に対する効果(すなわち神経回路再構築促進作用)が解析できるものと期待された。現在、虚血負荷後3日目からプロサポシン関連ペプチドを脳室内へ持続投与し、神経回路再構築促進作用ならびに学習行動障害改善作用の有無につき検討しているところである。
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