研究概要 |
本研究では、外傷性痴呆の病態におけるドーパミン神経の障害と、記憶の電気生理学的機構の1つと考えられている海馬long-term potentiation(LTP)の関与を検討するため、申請者らが作成に成功したラット外傷性痴呆モデルを用いて、以下の研究を施行した。 (1) ラット外傷性痴呆モデルにおける受傷後のドーパミン神経系障害の経時的変化を、本モデルを受傷後1,2,4週後に屠殺し、黒質ドーパミン神経細胞の変化を、抗チロシンハイドロキシラーゼ抗体を用い免疫組織化学的に、線条体のドーパミン放出量をin vivo microdyalisis法で測定した。その結果、細胞数、ドーパミン放出量とも、受傷後2週後より非受傷群に対し約70%減少していた。 (2) ラット外傷性痴呆モデルにおける受傷後の海馬LTPの障害を、本モデルの受傷後3,7日、2,4週後に、海馬歯条回のテタヌス刺激前後の興奮性シナプス後電位(EPSP)を測定し検討した。その結果、受傷2,4週後では有意な海馬LTPの誘導障害を認めた。 上記(1),(2)の結果を比較検討し、黒質ドーパミン神経細胞と海馬LTP誘導の障害の経時的変化が類似しており、黒質ー線条体ドーパミン神経系障害の、海馬LTP障害への関与が示唆された。 (3) ラット外傷性痴呆モデルにおける受傷後の海馬LTPの障害に対するドーパミンの補充効果を、本モデルの受傷2週後より3日間、L-DOPAを経口投与し、海馬LTPを測定し検討したが、改善効果は見出せなかった。そこで、現在ドーパミンD1/D5 agonist(SCH23390)の脳室内投与で検討している。 (4) 頭部外傷後痴呆患者のドーパミン代謝の検討に関しては、現時点では、^<18>F-DOPAを用いたPETによるドーパミン代謝を正常人とパーキンソン病患者を比較検討できたにとどまり、頭部外傷患者での測定には至っておらず、今後検討予定である。
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