本研究の目的はパーキンソン病とハンチントン病モデル動物への移植に用いるドナー細胞である胎仔ドーパミン細胞や線条体ニューロンに強力な神経栄養効果を発揮するglial cell line-derived neurotrophic factor(GDNF)を移植に応用して、移植後の神経回路網再建をより完全なものとすることにある。具体的には、GDNFを移植部位に補給し破綻神経回路網の解剖学的、機能的再建の程度を形態学的ならびに電気生理学的手法で評価して従来の移植方法の場合と比較検討する。平成10年度の研究で次の二つの課題が達成できた。 (1) 神経回路網再建の程度の評価パラメーターである大脳基底核の神経活動の測定技術とその信頼性の確立。パーキンソン病モデルおよびハンチントン病モデルラットにおける大脳基底核群の神経活動をミトコンドリア酵素のcytochorme oxidaseの活性および電気活動の測定により検討し、淡蒼球、中脳黒質網様部、視床下核の異常活動を明らかにした。これらの変化は一貫して認められ、信頼性のある評価パラメーターであることがわかった。さらに、パーキンソン病モデルおよびハンチントン病モデルラットに対して、それぞれラット胎仔ドーバミン細胞および線条体ニューロンの脳内移植を行うと大脳基底核群に起こった異常活動が正常化することも見いだした。以上の結果は国際科学雑誌に発表した(裏面参照)。 (2) GDNF補給手段としてのGDNF遺伝子導入線維芽細胞およびP19細胞株の確立。GDNF供給手段としてのGDNF遺伝子導入細胞の移植が考えられるが、平成10年度の研究で十分な生物活性を有するGDNFを分泌する線維芽細胞、さらにニューロンへの分化誘導が可能なP19細胞株の確立に成功している。これらの研究結果については現在論文執筆中である。
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