研究概要 |
当科で加療した腰椎変性辷り症のなかで女性患者80名を対象とした。コントロールとして健常女性350名に関しても同様の調査を行った。エストロゲン受容体遺伝子多型の解析はKobayashiら(1996)の方法で行った。即ち末梢白血球よりゲノムDNAを抽出、PCRでエストロゲン受容体遺伝子のイントロン1からエクソン2を含むDNA断片を増幅、PCR産物はPvu II,Xba Iの2種類の制限酵素でRFLP解析を行った。Pvu II,Xba Iで切断されない対立遺伝子をそれぞれP,X,切断される対立遺伝子をp,x,で示し、エストロゲン遺伝子型はPP,Pp,pp,XX,Xx,xx,PPXX,PPXx,PPxx.PpXx,Ppxx,ppxx等の組み合わせで表記した。各遺伝子型における腰椎変性辷り症の相対危険度を、ロジスティック回帰モデルを用いて計算した。結果は70才以下の群(n=54)でエストロゲン受容体遺伝子PPxxは腰椎変性すべり症の危険因子となる傾向を認めた(odds ratio 2.79,95% confidence interval 1.03-7.54,p=0.043)。本症の発症機序に関してはいまだ不明な点が多いが諸家の報告を見ると解剖学的な局所形態の異常に注目したものと全身因子の一つとしての性内分泌環境に注目したものなどがある。腰椎変性辷り症患者に女性が多い理由について、Rosenbergは性周期に伴う腰椎支持靭帯の弛緩が原因でないかと推察しており、今田らは閉経、卵巣摘出による女性ホルモンの低下が傍脊柱靭帯や関節包の弛緩を誘発し局所形態因子と重なって変性辷りを呈するのではないかと述べている。今回の結果より女性の腰椎変性すべり症にエストロゲン受容体遺伝子多型が関連する可能性が示された。 本研究の内容は第13回日本整形外科学会基礎学術集会および第27回日本脊椎外科学会にて発表した。本年も引き続き腰椎変性辷り症患者のエストロゲン受容体遺伝子多型の調査を続ける予定である。
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