研究概要 |
筋挫滅症候群はその病態の成立に血流の遮断による筋細胞の障害のみならず阻血および機械的な神経の損傷を併発している。先ず筋挫滅症候群の病態を把握する前段階として、血流遮断による影響と機械的な損傷による影響とを独立して理解するために、常温下(体温37度)での神経損傷の筋細胞のエネルギー代謝への影響を、リン核磁気共鳴装置を用いて調べた。 【方法】ウイスター・ラットにペントバルビタール麻酔下で一側坐骨神経切断、気管切開、下腿の皮膚剥離を加え、リン核磁気共鳴装置(大塚電子社製BEM250/80,2.1テスラ,直径2cmサーフェスコイル)を用い、無機リン/クレアチンリン酸(Pi/PCr)、β-ATP/PCr+Pi、細胞内pH(pHi)を測定し、坐骨神経非切断側と比較した。なお体温はリン核磁気共鳴装置のボーア内に温風を送ることにより37度に維持した。 【結果】除神経骨格筋は正常筋に比べ、Pi/PCrの高値(0.19±0.05vs0.09±0.02)とpHiの高値(7.22±0.02vs7.04±0.03)を認めた。 【考察】Pi/PCrはいわゆる細胞内エネルギー貯蓄の指標として用いられている。除神経骨格筋においてこの値が高くさらにpHiが高値を示したことから、その原因として、グルコースの取り込み低下、グリコーゲンの枯渇、筋細胞内のCa^<2+>調節機構の異常、細胞内pH制御能の低下、が考えられた。 【結論】筋挫滅症候群の成立の一因となる神経損傷は骨格筋細胞に対してエネルギー貯蓄の低下をもたらすことが判明した。
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