研究概要 |
提出した研究計画に従い,本年度は気道平滑筋収縮に対する環境変化,とくに低温暴露の影響について観察した.研究費は低温環境を作製するためにバイオウォーマー(ナリシゲ)を購入したほか,単離細胞等を作製する際に必要な消耗品等に充当した.気道平滑筋張力および細胞内カルシウムイオン濃度([Ca^<2+>]i)を同時に測定することにより,低温暴露がどのような作用動態を示すのかを明らかにした.材料として雑種成犬の気管平滑筋組織を用い,Ca^<2+>感受性蛍光指示薬としてfura-2を用いた.[Ca^<2+>]iと平滑筋張力との同時測定は恒温バスユニットを備えた蛍光光度計専用装置(CAF-100)で測定した.高カリウム(72.7mM)ならびにカルバコール(1μM)で刺激し,組織を低温(32℃,27℃)に暴露した.変化が一定したところで吸入麻酔薬ハロタンを暴露し,平滑筋張力と[Ca^<2+>]iの変化を観察した.高カリウム収縮時の低温暴露は収縮および[Ca^<2+>]iの上昇を有意に低下させた.カルバコール収縮時の低温暴露は気道平滑筋収縮をより増強させたが,[Ca^<2+>]iは有意に低下させた.カルバコール収縮時にみられた低温暴露の影響はハロタンによる収縮抑制時にも観察された.低温暴露は電位依存性カルシウムチャンネルなどの抑制を介して[Ca^<2+>]iの上昇を抑制したと考えられる.受容体刺激時の低温暴露はCa^<2+>に対する感受性を亢進するなどして[Ca^<2+>]iの低下にもかかわらず収縮力を増強したと考えられる.ハロタンによる収縮力抑制時にも低温暴露による増強作用が認められたことから.治療上少なくとも気道平滑筋そのものにとって低温暴露は不都合である.現在,バッチクランプ法を応用し,[Ca^<2+>]iの調節に重要なチャンネルである電位依存性Ca^<2+>チャンネルに対する影響を観察し,チャンネルレベルでの作用機序を明らかにしようと試みている.
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