(目的)MRL/lprマウスに発生し神経系と雄生殖器系に異常をもち、常染色体劣性の遺伝型式を示すミュータントマウスを分離し、AMS(ataxia and male sterility)マウス(AMSと略す)と名づけた。雄AMSは生殖能力を有さないため、この原因を明らかにするべく精巣における精子形成過程を、生殖細胞の発達・分化を中心に調べた。また、生殖細胞の細胞死の誘導に関して、アポトーシスを生じている細胞を検討した。(方法)雄AMSを経時的に対照野生型マウス(Wと略す)と併せて調べた。精巣および精巣上体を摘出しPAS-ヘマトキシリン染色とHE染色を行った。アポトーシスの評価には12週齢の雄AMSとWの精巣を、TUNEL法を用いて調べた。(結果)[発達と分化]1)21日齢、28日齢では初回の精子形成の途中でありAMSとWで差はみられない。2)35日齢で初回の精子形成がWと同様に完成する。3)56日齢頃よりAMSの精細管では生殖細胞の変性・脱落がみられ、70日齢以降でより明瞭となる。この時期の精巣上体ではWが精子で充満しているのに対し、AMSではわずかの精子を認めるのみである。4)生殖細胞の変性・脱落は精祖細胞から精子細胞のいずれの段階でもみられるが、太糸期一次精母細胞以降、特に精子細胞で多い。[アポトーシス]1)AMSではTUNEL陽性にの細胞を有する精細胞管の数が多い。2)TUNEL陽性の生殖細胞はいずれの発達段階でもみられるが、AMSでは特に精子細胞に多くみられる。(結論)AMSの雄性不妊は精細管内での生殖細胞分化異常(変性)にもとづく高度の乏精子症によると考えられた。初回の精子形成が完成した後の生後8週頃より生殖細胞の変性・脱落が目立ち始めるが、AMSでは生殖細胞のアポトーシスが増加していることより、乏精子症と生殖細胞死の増加との間の関連が考えられた。
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