[目的]自己免疫疾患モデルマウスMRL/1prに発生し、神経系および雄性生殖器系に異常を示す常染色体劣性遺伝のミュータントマウスを分離し、AMS(Ataxia and male sterility)マウスと名づけた。AMSの神経症状は生後20日前後より明瞭となる体の不安定性と成獣での中等度の失行であり、これは小脳プルキンエ細胞の変性・脱落に基づく症状であった。雄AMSは生殖能力を保持しないため、その原因を明らかにすべく精巣における精子形成の異常の有無を、生殖細胞の発達・分化の関点から検討した。[方法]AMSと対照野生型マウス(W)の精巣および精巣上体を経時的に摘出し、プアン液で潅流固定後、PAS-ヘマトキシリン染色ならびにHE染色を用いて、精子形成異常の有無を検討した。[結果]1.精巣重量はWに比較し、AMSで有意に低く、また精巣横断面での外周、精細管の外周ともにAMSで小さい。2a.AMSでは35日齢で初回の精子形成がWと同様に完成する。2b.AMSでは49日齢では精細管にみられるelongated spermatidの数がWに比較し少なく、Wの精巣上体管が精子で充満されるのと対照的に、AMSではほとんど精子が観察されない。2c.AMSの精細管では56日齢頃より生殖細胞の変性・脱落が観察されはじめ、70日齢以降でより明瞭となる。3.AMSでの生殖細胞の変性・脱落は精祖細胞から精子細胞のいずれの段階でも認められるが、太糸期1次精母細胞以降特に精子細胞で多い。[結論]AMSの雄性不妊は精細管内での生殖細胞分化異常(変性)に基づく高度の乏精子症によると考えられた。
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