子宮頚部扁平上皮癌で、性ステロイド受容体と細胞周期調節因子の発現異常の存在を検討するため、研究実施計画の如く免疫組織学的実験を行った。[対象と方法]正常子宮頚部扁平上皮30例、Cervical intraepithelial neoplasia(CIN)21例、浸潤癌33例において、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容供(PR)、サイクリン(E、A、B1)、サイクリン依存性燐酸化酵素(cdk2、cdc2)、および癌抑制遺伝子p53に対する抗体を用いてABC法にて染色した。染色結果は細胞500個当たりの陽性細胞率で評価した。[結果]正常では、ERは基底層から中層に発現し、PRは傍基底層に弱く発現した。サイクリン(E、A、B1)およびcdk(cdk2、cdc2)は傍基底層に陽性細胞率1%以下で認めるのみであり、p53は陰性であった。CIN、浸潤癌ではERの発現が低下し、PRは正常同等またはやや増強、サイクリン、cdkの発現は増強していた。浸潤癌ではこの傾向が更に著明であり、p53も13例陽性であった。加えて浸潤癌において、サイクリンA、p53は陽性群の方が陰性群よりKi-67陽性率が有意に高く、サイクリンEは陰性群の方が陽性群よりKi-67陽性率が高かった。[考察]正常上皮→CIN→浸潤癌の過程の中で、ERの発現は腫瘍化に伴い減弱しており、PRは正常と同等か軽度増強という発現異常の存在が示された。これは腫瘍細胞では、正常な性ステロイドホルモンによる増殖制御から逸脱している可能性を示唆している。また正常上皮と比べCINおよび浸潤癌では、サイクリンおよびcdk陽性細胞数は明らかに増加した。これは、腫瘍細胞が細胞周期調節因子を過剰発現して活発な増殖能を獲得している可能性と、これらの異常がすでにCINの段階で発生していることを示している。さらに浸潤癌においてはサイクリンAとp53陽性例が、陰性例よりKi-67陽性細胞率が高く、サイクリンEではその逆であったことから、関与する細胞周期調節因子の種類が異なると細胞増殖能が異なっている可能性が示唆された。
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