研究概要 |
HELLP症候群は,肝機能障害・溶血・血小板減少を主徴とし,胎児仮死を合併する.時にはDIC・腎不全などの多臓器不全によって母児ともに死に至る重篤な妊娠性疾患である.従って早期発見・早期治療が母児の救命にとって必須であるが,その原因はよくわかっておらず,治療法も早期娩出と対処療法しかない. Hepatocyte Growth Factor(HGF)は,肝細胞を始めとした多くの上皮細胞の増殖を制御しており,様々な肝疾患で血清中で上昇することが知られている.また,胎盤でも多量に産生され,胎盤の発育や胎児の器官形成にも重要な役割を果たしている. HELLP症候群の病態形成においてHGFが関与している可能性について検討するため,まず,HELLP症候群および正常妊婦血清におけるHGF濃度をELISA法を用いて検討した.血清HGF濃度はHELLP症候群で1.17ng/ml,正常妊婦血清において0.44ng/mlとHELLP症候群において著明な高値を示した.このことから,HELLP症候群における肝・血管障害の修復帰転においてHGFは重要な役割を演じている可能性が考えられた. 次に,血管内皮細胞・トロホブラストにおけるc-metの発現について検討を加えるために,multiplex RT-PCR法を確立した.通常の方法ではきれいなバンドが得られなかったため,HOT-start法を行い,RT-PCRによって血管内皮細胞からc-met mRNAを検出できた.β-actinをinternal controlとし,これに対するc-metの比として検出し,簡易の定量的RT-PCR法とした.この方法によってHELLP症候群の血清が血管内皮細胞を刺激してc-metを発現させることによってその修復を促進していることがわかった.
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