Brn-3は感音難聴の原因遺伝子のひとつと考えられており、Brn-3ノックアウト・マウスでは、蝸牛および前庭器の有毛細胞が欠落していることが知られている。このノックアウト・マウスでは、感音難聴のほかに平衡失調様の回旋運動が見られることがわかっている。一方、正常マウスの前庭耳石器の有毛細胞はosteopoietinのmRNAを発現することが報告されており、有毛細胞が耳石の生成・代謝に関与している可能性が指摘されている。本研究では、有毛細胞の欠損するBrn-3欠失マウスにおいて、前庭器の耳石膜が形成されているかどうかを検討するために、耳石器の形態学的観察を行った。 Brn-3欠失マウスのhomozygote6匹と、対照としてのwild typeマウス4匹について実験を行った。これらの動物はエーテル麻酔下に断頭し、速やかに摘出された側頭骨を2.5%グルタルアルデヒドで固定し、まず実体顕微鏡下に球形嚢の耳石膜を観察した。さらに取り出した試料を1%オスミウム酸で後固定し、走査型(SEM)および透過型(TEM)電子顕微鏡にて観察することとした。 実体顕微鏡およびSEMによる観察では、耳石膜の大きさや個々の耳石膜の形状には、homozygoteとwildtypeの間で差異は認めなかった。この観察により、有毛細胞を欠くBrn-3欠失マウスでも、耳石膜は形成されていることが明らかになった。 今後、耳石膜と感覚上皮の関係について、TEMによる観察で検討していく予定である。
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