研究概要 |
本研究の最初の目的である蝸牛への薬剤直接投与法の確立のため,モルモットを使用し局所麻酔下に乳突骨胞を開き,蝸牛基底回転鼓室階外側壁からカテーテルを挿入し,浸透圧ポンプでの薬液注入を試み,留置電極を用いて聴覚閾値の変化を観察した。その結果,投与液が生理食塩水であれば,蝸牛機能(聴覚閾値)にほぼ障害を与えずに直接投与が可能であることが確認された。この蝸牛機能の評価のための測定音を正確に出力する実験装置としてファンクションジェネレータ(NF回路社,FG-163)および周波数カウンタ(岩崎通信,SC-7104)を使用した。また,実験状態の記録,およびプレゼンテーションのためカメラ(キャノン,New EOSKiss)を使用した。上記の研究結果の概要は平成9年10月の日本耳科学会にて報告した。 第2の目的である肝細胞増殖因子(HGF)の内耳に与える影響をみるために,正常蝸牛および強大音による障害蝸牛にHGFを上記の手法を用いて直接投与し蝸牛機能の変化を観察した。正常蝸牛においては蝸牛機能への影響は認められず,HGFは正常組織に過形成を起こさないとされている事と矛盾しない結果であった。また,強大音による障害蝸牛では,障害発生直後の蝸牛機能は対照群と差がないにも関わらず,1週間経過後の禍牛機能は対照群よりも改善傾向が強く認められた。用いた強大音のレベルは必ずしも蝸牛有毛細胞の脱落を来す強さではなかったため,禍牛機能回復促進の作用機序は現時点では不明である。HGFの多くの生理活性の内の1つとして障害蝸牛の機能回復作用があり,直接投与により効果を上げることができる可能性が示唆された。以上の研究成果は平成10年10月の日本聴覚医学会において報告した。
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