研究概要 |
蝸牛への薬剤直接投与法を用い,肝細胞増殖因子(HGF)の内耳に与える影響をみた。実験ではモルモットを使用し,局所麻酔下に乳突骨胞を開き,蝸牛基底回転鼓室階外側壁からカテーテルを挿入し,浸透圧ポンプで薬液注入し,留置電極を用いて聴覚閾値の変化を測定した。強大音による障害蝸牛に対してHGFを上記の手法を用いて直接投与し蝸牛機能の変化を観察し,生理食塩水投与群と比較した。この実験状態の記録,およびプレゼンテーションのためカメラ(富士フィルム,MX900ACE)を使用した。 強大音による障害蝸牛では,障害発生直後の蝸牛機能は対照群と差がないにも関わらず,1週間経過後の蝸牛機能は対照群よりも改善傾向がより強く認められた。HGFは種々の細胞に対して増殖および分化を強力に促す増殖因子であることが認められているが,用いた強大音のレベルは蝸牛有毛細胞の脱落を来す強さではない。一方,有毛細胞の脱落を引き起こす傷害の強さでは,たとえ増殖因子の作用で細胞が再生されたとしても機能を1週間で回復するとは考えにくく,蝸牛機能回復促進の作用機序は現時点では不明である。HGFの多くの生理活性の内の1つとして不可逆性の傷害に至る変化を抑制する作用が想定され,直後投与により強大音に対して蝸牛保護効果を上げることができる可能性が示唆された。今後の課題として,傷害の程度に個体差が大きい原因を究明していくこと,および,HGF群と対照群の間に組織学的にも違いが認められるかをみていく必要がある。
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