我々は昨年度までに赤外線カメラと小型角速度センサー、FM変復調器、ビデオレコーダーとを組み合わせた頭部運動、眼球運動同時記録システムを開発した。本年度はこのシステムを使って日常診療中に記録した手動回転に対する前庭眼反射(VOR)の解析結果と、日常臨床において前庭機能検査の中で頻用され、かつもっとも重要視されている温度刺激検査の結果とを多数例において比較検討した。その結果、VOR gainは温度刺激検査の最大緩徐相速度と、またVORの方向優位率(directional preponderance、DP%)は温度刺激検査のCP率と有意に相関することがわかった。またこのVOR DP%は発症後前庭代償により徐々に正常化すること、またこの正常化は前庭機能低下が少ないほど早いこと、また発症後50日以内であれば日常診療中に行う手動回転に対するVORの解析で一側前庭機能低下は検出可能であることがわかった。以上より昨年度開発したVOR記録システムを使えば日常臨床で定量的な前庭機能検査が行えることが示された。これを日本耳鼻咽喉科学会、日本平衡神経科学会(日本めまい平衡医学会に名称変更)で発表し、現在international journalに投稿中である。またこのシステムの簡便性・即時性という利点を生かして、従来記録が困難であった、様々なめまい疾患(たとえばメニエル病や前庭水管拡大症などの発作期)のVOR記録を行い、今まで明らかでなかった前庭機能の動的な変化をとらえることができた。これらはアメリカ基礎耳鼻科学会で発表され、さらにActa Otolaryngologica(Stockh)に掲載予定である。
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