慢性副鼻腔炎の病態の遷延化と重症化の原因として、局所粘膜に持続的に動員される好中球・単核球による組織障害が重要視されている。これらの細胞はサイトカイン・ネットワークを介して、上皮細胞の増殖・分化能力の調節並びに、ケミカルメディエータに対する上皮細胞の反応性にも影響を及ぼしていることが示唆されている。今回の研究では、styrylpyridinium系色素などの各種の蛍光プローブの細胞導入技術を活用し、培養副鼻腔上皮細胞を標識し、線毛細胞における受容体介在型endocytosisの過程とゴルジ装置・分泌顆粒などの細胞内小器官の動態の可視化に成功した。続いて代表的なケミカルメディエータであるヒスタミン刺激反応について、線毛打頻度(CBF)の変化も含めて検討を行った。これらの観察には共焦点レーザー顕微鏡を用いることにより、細胞の三次元構築と定量的解析が、リアルタイム下に可能であった。培養副鼻腔粘膜においては10-3〜10-5Mのヒスタミン刺激に対して約20%のCBFの増加が認められ、この増加はpyrilamine(H1)の前処置でほぼ完全に抑制されたが、cimetidine(H2)前処置でほとんど影響を受けなかった。また同刺激によって、線毛細胞では個々の線毛が存在しているapical surfaceに、一方無線毛細胞ではbasolateralsideを中心とした領域に蛍光の継時的増加が観察された。以上をもとにヒスタミンH1受容体の生理学的活性を考察すると、線毛細胞では細胞内Ca2+とATPase活性の上昇による線毛賦活化作用が、無線毛細胞においてはPLCの活性化と細胞内Ca2+上昇による管腔側へのCl-分泌促進が挙げられ、副鼻腔粘膜上皮においてもヒスタミンは線毛運動と電解質の分泌を介して重要な役割を果たしていることが示された。
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