近年諸家の報告により、ベル麻痺(特発性顔面神経麻痺)の病因として顔面神経節に潜伏感染した単純ヘルペスウイルス1型(以下HSV-1)の再活性化が強く関与していることが有力視されている。申請者らは既にHSV-1初感染顔面神経麻痺モデルの作製に成功しており、同モデルにて再活性化の必要条件である潜伏感染も共生培養法にて証明している。今回、よりベル麻痺発症に類似したHSV-1再活性化による顔面神経麻痺モデルの作製を試みた。 実験方法はBalb/cマウスの一側耳介にHSV-1を接種し、初感染による一側性一過性顔面神経麻痺を発症させた。麻痺治癒後、潜伏感染の成立した2から4カ月経過したマウスに対して、抗T細胞抗体(抗TCR抗体、抗CD3ε抗体)を用いた選択的細胞性免疫抑制と神経終末である耳介擦過による局所刺激を併用しHSV-1再活性化を誘発した。以後、連日マウスの全身状態と髭・鼻翼の動き、また瞬目反射にて顔面神経機能を詳細に観察した。 免疫抑制後翌日から全てのマウスに立毛と活動性に低下が出現した。免疫抑制後7から14日目に約28%のマウスに顔面神経麻痺が出現し、麻痺は約14日間持続した。初感染麻痺モデルと比較すると麻痺程度は軽度であった。免疫蛍光法にて麻痺側脳幹顔面神経下行脚と運動核にHSV-1抗原を同定し、病理組織学的には脳幹顔面神経下行脚から膝部に炎症細胞の浸潤を、また脳幹運動核にHSV-1の炎症に特異的とされる核内封入体を認めた。これらのことからHSV-1再活性化による麻痺と考えられた。
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