本年度は、神経伝達物質を用いた実験を行った。外有毛細抱の神経伝達物質を用いた実験は、研究代表者を含めすでにいくつかの報告がなされている。このために材料には有毛細胞からの神経信号を受け取るラセン神経節細胞をもちいた。ラセン神経節細胞も聴覚の感覚器の中では神経伝達にかかわる中心的な役割りをはたしており、蝸牛内の部位によりそれぞれ特徴周波数が決まっている。このため今回の研究の目的とした蝸牛内での膜イオンチャンネルのそれぞれの部位での遺伝子構造を解明することと同義である。 今年の実験の結果はラセン神経節細胞が抑制性神経伝達物質であるGABAに応答することを明らかにしたことである。しかも、GABAは蝸牛求心性神経に直接シナプスを作っている遠心性神経から放出される。このことは蝸牛からの神経信号が受容器細胞の後シナプス側で制御をうけている可能性を強く示唆する結果である。今までに外有毛細胞を介した中枢からの信号の制御は多数の報告がなされているが、求心性神経に対する制御は全く報告が認められていない。この点でこの研究結果は大きな意義をもつ。しかも、ラセン神経節細胞によってはGABA応答を有するもの、有さないもの、大きさにも差があり、これが蝸牛内の部位差による可能性が推測された。しかも、GABA受容体も薬理学的実験からγ subunitを含んでいることが示唆された。
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