研究概要 |
ヒト側頭骨標本による免疫組織化学的方法により,ヒト内耳全体の交感神経系の分布を検討するため,まず,通常の方法で作製・保存されたヒト側頭骨連続切片を対象として,H-E標本で形態学的状態を確認し,形態保存の良好な正常耳を選択し,免疫組織学的方法の確立を図った.免疫組織学的方法は,研究実施計画に基づき,水酸化ナトリウム飽和メタノールの希釈液にての処理を基本とした.一次抗体として交感神経の観察にtyrosine hydroxylase,dopamin β-hydroxylaseに対する抗体それぞれ,5種,1種用い,ABC法にて抗原を描出した.抗体によっては非特異的反応が多く不適切なものがあり,最終的には3種の抗tyrosine hydroxylase抗体を用いた.また,抗体の反応が悪く,microwave oven照射も施行したが,切片の形態上の問題もあり,通常のABC法に換えDAKO社Catalyzed Signal Amplification System等も使用した.ヒト側頭骨標本における内耳のtyrosine hydroxylaseの反応は現時点では一部確定できないものもあるが,おおむね次のように認められた.まず,内リンパ嚢周囲では,散在性でむしろ遠位部で少ないように思われた.また,内頚動脈の周囲にも反応が認められた.蝸牛では血管条,骨ラセン板,蝸牛軸,前庭では感覚上皮下組織に反応が見られた.しかし,側頭骨標本上の反応は限局しており,神経としての走行の連続性が未確認であるため,今後,さらに連続切片上での観察が必要と考えられる.また,反応の安定化をはかるために,平行して免疫組織化学的方法にも改善を加える計画である.
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