中耳炎症性物質(サイトカインおよび細菌毒素)が感音難聴を惹起する可能性のあることは、これまでにも報告されてきているが、今回は、その感音難聴の病態および予後に関する電気生理学的および微細形態学的両面からの基礎的研究に主眼をおいた。本研究では、インターロイキン8(IL-8)と緑膿菌の外毒素であるPseudomonas aeruginosa exotoxin A(PaExoA)に的を絞り、これらが中耳腔に存在した場合の聴覚機能への影響を検討することを目的とした。 経鼓膜的に正円窓部にIL-8を投与した2、5日後に、高周波数領域でのABR閾値の有意な上昇を認めたが、14日後には投与前の閾値まで回復した。光学顕微鏡的には、IL-8投与1、2日後に好中球を中心とした多量の白血球が正円窓外側に観察されたが、経過を通して、光学顕微鏡的にはコルチ器や血管条には変化は認められなかった。これらの結果より、中耳腔内に存在するIL-8は、その好中球に対する強力な作用により、内耳に対しても可逆性の蝸牛障害を惹起する可能性が示された。フリーラジカルや一酸化窒素の阻害剤の有用性についても検討は今後の課題としたい。また、PaExoAを経鼓膜的に正円窓部に投与2日後、高周波数領域を中心とした全周波数領域にわたるABR閾値の有意な上昇を認め、聴覚障害が惹起されていることが確認された。しかしながら、4分の3の動物においては、投与1ヶ月後にはABR検査上、閾値の回復が認められ、実験的にPaExoAは一過性の聴覚障害を惹起することが確認された。微細形態学的には、蝸牛内に炎症性細胞の浸潤が認められた。これらの結果より、中耳腔内に存在するPaExoAは、その毒性により、主として可逆性の蝸牛障害を惹起する可能性が示された。本研究の一部は、第99回日本耳鼻咽喉科学会総会において、口演した。
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