下気道では、気道過敏性亢進が喘息の発症メカニズムの重要な位置を占めることは事実であるが、鼻粘膜においても同様な鼻粘膜過敏性があるか不明な点も多い。そこで本研究では、鼻アレルギーの病態において、ケミカルメディーターのうち最強の内因性知覚神経刺激物質であるブラディキニン(BK)が、鼻粘膜過敏性の亢進に影響を与えるかを検討した。また、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤を内服している高血圧患者の一部では空咳の副作用が報告されているが、これはACE阻害剤が気道過敏性を亢進させている一事象である。そこでACE阻害剤を投与しBKの分解が妨げられた状態では、鼻粘膜の炎症反応が変化するかどうか検討した。 実験は、正常者7人、通年性アレルギー性鼻炎患者7人、計14人を対象に行った。BK100μgを鼻誘発し、鼻汁および洗浄液中のアルブミン、リゾチーム、総蛋白の変化から血管透過性、腺分泌(漿液腺)の変化を検討した。同様の方法で、ACE阻害剤を前投与した場合の実験も行った。アレルギー性鼻炎患者は、BK誘発により鼻粘膜血管透過性および腺分泌が亢進し、鼻腔洗浄液中にアルブミンとリゾチームが増加した。ACE阻害剤の前投与によってこの傾向はさらに顕著になった。 これらのことからアレルギー性鼻炎患者は、BK誘発に対する反応性が高く、抗原に暴露され産生されるBKが血管透過性を亢進させ鼻閉や鼻汁分泌などの鼻症状を修飾していると考えられた。さらに何らかの病態によってACEが減少すれば、さらに血管透過性が亢進してアレルギー反応が遷延化し、鼻症状が増悪する可能性が考えられた。BKは、神経ペプチドの分泌を亢進させ神経原性炎症を惹起すると考えられているが、鼻アレルギーでも喘息と同様に、神経原性炎症が発症機序の一つである可能性の考えられる。
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