研究概要 |
耳鳴りは日常診療における難治症状の一つである。その主たる理由としては、耳鳴りの原因が不明な場合がほとんどであることがあげられる。サルチル酸、キニンは難聴、耳鳴りを発生させる事で知られているが、これら薬剤についても聴覚経路上どこで、どのようなメカニズムで耳鳴りが発現するかについては明らかでない。今までの実験動物を用いた報告によると、蝸牛からの電気生理学的検討により複合活動電位の変化、形態学的検討による外有毛細胞の障害がみられた。また、蝸牛核、下丘における自発放電発火率の上昇、聴皮質における第二次皮質聴覚野からの自発放電発火率上昇した結果から、耳鳴りの神経伝導路は通常の聴覚経路classical pathwayとは違うextra-lemuniscal pathwayが強く関与していると推察された。 今回の研究では、サリチル酸、キニンを実験動物に投与して耳鳴り発現について電気生理学的に検討した。複合活動電位は2,4,8,16kHzの短音によって記録され、クリックトレインは8,16,32,64msの間隔で与えられた.その結果、サチリル酸、キニン投与動物の複合活動電位の閾値は薬剤投与後の全ての動物において5-30dB上昇し、順応現象の変化が認められた。これらの複合活動電位の変化はカルシウムイオンチャンネルが強く関係しており、順応現象を抑制した。この事がextra-lemuniscal pathwayへの影響したと考えられ、耳鳴りが発生する原因の一つと推察した。また、複合活動電位の波形について検討したところ、キニン投与群のみ異常が見られた。このことから、これら薬剤が全て同様なメカニズムではないと考えられた。 今後、順応現象とextra-lemuniscal pathwayの関連性について研究を進める事で耳鳴りのメカニズムがより明らかになり、その結果が耳鳴りの治療に結びつくと思われた。
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