我々は新しい声帯内注入物質として、粉末状の水酸化アパタイト(以下アパタイトと省略)とフィブリン糊の混合物を成犬8匹の声帯内に注入し、その安全性と有用性を確認した。アパタイトは粒子の直径が20μmと40μmを作製した。声帯内注入から1カ月後と3カ月後に喉頭を摘出し、喉頭の前額断切片を作製した後、ヘマトキシリン・エオジン染色を行い、光学顕微鏡下に組織反応を検討した。声帯内注入1カ月後、径20μmと40μmの注入されたアパタイト塊はどちらも薄い線維性の被膜に被われ、注入部位に安定して存在していた。さらに、個々のアパタイト顆粒間は線維細胞にその周囲を被われるように固定され、アパタイト顆粒はアパタイト塊の中で均一に分散していた。フィブリン糊は完全に生体内に吸収され、炎症細胞はリンパ球と形質細胞の軽度浸潤がみられたのみで好中球の浸潤はみられなかった。また、マクロファージを多数認め、径20μmのアパタイト顆粒を貪食したものもみられた。径40μmのアパタイト顆粒でもマクロファージを多数認めたが、径20μmのアパタイト顆粒よりマクロファージに倉食されず、より安定した状態で注入部位に存在していた。声帯内注入後3カ月では、声帯内注入後1カ月と同様に、径20μmと40μmの注入されたアパタイトの塊は薄い線維性の被膜に被われ、注入部位にアパタイトは安定して存在していた。1カ月後と異なっていたのは、炎症細胞の浸潤がほとんどみられなかったこととマクロファージが少数認められたことであった。また、径40μmのアパタイト顆粒は径20μmよりマクロファージに貪食されず、より安定した状態で注入部位に存在していた。このことから、フィブリン糊とアパタイトの混合物は声帯内注射に用いる物質として有用であると考えれれた。
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