研究概要 |
ラット中枢神経系幹細胞は成熟したラットの正常眼に移植されてもホスト網膜に取り込まれて神経幹細胞から網膜固有細胞への分化が誘導されることはないが(M.Takahashi et al.,ARVO 1997)、障害をうけた網膜への神経移植のドナーとして有効である可能性を検討するために、一過性虚血負荷を課した成熟ラット眼に幹細胞を移植し、ホスト網膜に中枢神経系幹細胞が取り込まれるかどうかを検索した。成熟ラットの眼球に110mmHg高眼圧負荷により60分間の一過性網膜虚血を惹起し、再灌流直後に成熟ラット海馬由来のβ-galactosidaseにて標識された中枢神経系幹細胞(Palmer et al.,Mol Cell Neuroscience 8:389-404,1997)を硝子体腔へ注入した。処置後、1、2、3、8週間後に眼球を摘出し、組織学的検索を行った。また、コントロールとして非虚血ラット眼にも幹細胞の注入を行い、3週間後に組織学的検索を行った。その結果、一過性虚血負荷眼に注入された中枢神経系幹細胞は、移植1週間後には網膜神経細胞層に侵入し、2〜3週間後には網膜内顆粒層にまで到達した。さらに、移植8週間後には網膜の各層に定着し、神経回路網様の形状を示すに到った。これに対し、コントロール群では幹細胞の網膜への侵入は認められなかった。中枢神経系幹細胞は、一過性虚血負荷を受けた眼に移植されると障害網膜に統合されることが明らかとなった。中枢神経系幹細胞は虚血障害後の網膜神経回路網修復に利用できる可能性が示唆される。
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