研究概要 |
(1)正常マウス(C57BL/6J)で、末梢神経を自家移植する方法および網膜神経節細胞の軸索再生能を定量的に評価する方法を確立した。網膜内移植法および眼窩内移植法を試み、移植神経片からの逆行性標識法によって、いづれの方法でも軸索再生細胞を確認した。軸索再生能の定量的評価によって、網膜内移植法では平均1%、眼窩内移植法では0.1%と前者の方が10倍も再生率が高いことが分かった(Inoue et al.,2000)。 (2)正常マウスで網膜を培養し、網膜神経節細胞へLucifer yellowを細胞内注入した。その樹状突起の形態は、ネコのα-cell、γ-cellまたはδ-cellに類似し、ラットでの形態的分類に対応していた。 (3)Bcl-2トランスジェニック(bcl-2Tg)マウスへ末梢神経移植を行い、網膜神経節細胞の軸索再生能を定量的に評価した。健常の神経節細胞、眼窩内移植後の生存細胞および移植後に軸索再生した神経節細胞の細胞数を求め、そこから生存率、生存細胞の軸索再生率および健常細胞の軸索再生率を評価した。その結果、移植4週後の平均生存率はbcl-2Tgマウスでは64.1%で、、これは野生型マウスの9.6%に比べ約7倍も高かった。しかし、生存細胞の平均軸索再生率は前者で0.5%であり、後者の4.6%に比べ著しく低かった。その結果、健常細胞の平均軸索再生率は両マウス間で有為差がなかった(0.3%vs0.4%)。しかし免疫組織染色により、眼窩内移植した神経片の前で、一部の軸索伸展が妨げられることが分かった。そこで、そのような制限のない網膜内移植によって検討したところ、軸索再生率は両マウスとも増加したが、bcl-2Tgマウスでの再生率は有為に増加していなかった(0.9%vs1.3%)。以上より、強制発現されたbcl-2は軸索切断された成熟網膜神経節細胞の生存を促進するが、軸索再生には関与していないことが強く示唆された(投稿中)。
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