研究概要 |
新生児の炎症時における尿中トリプシンインヒビター(UTI)値の変動を調べる目的で、新生児手術症例10例を対象に、その尿中UTI値をRadioimmunoassay法によって測定し、血中C反応性蛋白(CRP)値と比較してみた。まず、健常時(対照群)において、新生児の尿中UTI値は、158±26.3(U/mgCr.Mean±SE)で、幼児の尿中UTI値16.5±3.1よりも有意に高値を示した(U-test,p<0.01)。次に、手術症例では、術前CRP陽性例の尿中UTI値は、それぞれ433、728、819で、対照群より有意に高かった(U-test,p<0.05)。その術後の変動は、1例を除いて、血中CRP値の変動に概ね類似していた。一方、術前CRP陰性例の尿中UTI値は153±32.7で、対照群と有意差はなかった(U-test,p>0.05)。その術後の変動はさまざまであり、血中CRP値のような一定のパターンは示さなかった。尿中UTI値は、血中CRP値と正の相関関係を示した(r=0.475,n=60,p<0.01)ものの、手術後の尿中UTI値の変動には、血中CRP値とは異なる変動のパターンを示す症例も認められた。したがって、新生児で現在ルーチンに使用されている血中CRP値などの血液検査の代わりに、この尿中UTI値を使用することは難しいことがわかった。新生児では健常時でもUTIの産生が亢進していること、また、UTIとCRPの産生経路は異なることより、両者の値には乖離が生じる病態もあり得ると考えられた。これらの知見は、新生児特有の病態を理解する上でも役立つ可能性があり、今後は、手術症例の他にも、成熟児と未熟県との尿中UTI値の比較や、日齢や月齢による尿中UTI値の変化など、さらに症例を増やして検討を進めたい。
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