成長期における小腸広範切除術は小腸吸収面積の減少に起因する栄養障害、成長障害を来すため、残存小腸の機能代償を積極的に促す術後療法が望まれる。このような残存小腸の馴化(粘膜上皮細胞増殖)過程に関与するhormonal factorとしては、腸管グルカゴンの主因子であるグリセンチンやEGF、IFG-Iの効果が期待されてきた。我々は遺伝子工学的に精製されたヒトグリセンチンを用いて、そのヒト腸管上皮増殖促進効果を種々の条件下にin vitroでELISA BrdU法による増殖因子添加後24時間のDNA合成量及び、MTT法による生細胞数を計測し検討した。その結果、1)グリセンチンには単独で増殖促進効果があり、その最大の効果は1μg/ml添加時に認められた。(10%胎児ウシ血清(FCS)添加時の約57%)2)EGF(1ng/ml)あるいは、IGF-I(100ng/ml)との相乗効果により10%FCS投与と同等の増殖促進効果が認められた。3)12-O-tetradecanoyl-phorbol(TPA)との相乗効果はないが、PGE1との相乗効果が認められた事から、グリセンチンの作用機序はプロテインキナーゼC(PKC)を介する細胞内情報伝達系での、DNA合成量促進であると推測した。 今後、グリセンチンのさらなる細胞内増殖情報伝達メカニズムを明らかにする事により臨床的に有用な投与法を検討し、大量小腸切除による短小腸動物モデルあるいは、長期中心静脈投与により腸管上皮が萎縮した動物モデルに投与しその消化吸収実験を行っていく予定である。
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