【緒言】皮弁の生着・壊死において虚血再潅流障害で血管内皮細胞に起こる変化が生着を妨げ壊死をもたらす要因の一つになっていると考えられている。ラット皮弁の虚血再潅流障害モデルにおいて、抗ICAM-1抗体単独での抗炎症作用が示唆されたが、逆にそのカウンターレセプターの1つのLFA-1に着目し、そのモノクローナル抗体を投与することでICAM-1/LFA-1経路を遮断し虚血再潅流障害の炎症を軽減できる可能性について考え、実験を計画実施した。 【材料と方法】体重225-250グラムのオスのSDラットの右鼠径部に皮弁を作成し、9時間および12時間の虚血の後再潅流を行う虚血再潅流障害皮弁モデルを作成する。抗体投与の治療群と生食投与の対照群とに分け、抗体は再潅流15分前に尾静脈よりI.V.にて投与し、対照群は同一条件で生食水を投与した。経過観察は7日間で、皮弁の生着領域および組織学的検索にて各群を比較検討した。 【結果】再潅流後7日目の皮弁生着領域の比較では、9時間虚血、12時間虚血抗体投与群でともに対照群に比べ有意に(p<0.02)皮弁生着領域の向上が認められた。組織学的所見の比較では、対照群で、炎症細胞浸潤や浮腫、一部壊死に陥っており、強い炎症所見が認められが抗体投与群では、炎症所見は認められるものの軽度で、皮膚構造も比較的よく保たれていた。 【考察】LFA-1分子はインテグリンファミリーに属する細胞表面蛋白で、リンパ球をはじめすべての白血球上に発現しているため、抗炎症や移植などの分野で、その抗体による治療効果が期待されている。今回の実験モデルにおいて、抗LFA-1抗体を用いて障害の軽減を試み、対照群に比べて、肉眼的にも組織学的にも炎症所見の著しい軽減が認められ、その抗炎症作用としての有用性が示唆された。 平成11年度は、さらに他の接着分子での抗炎症作用の実験研究およびそのメカニズムについて研究を継続する予定である。
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