短時間の一時的虚血と再潅流が(ischemic preconditioning)がその後の虚血障害を軽減することが心臓、脳などで確かめられている。前年度、皮弁移植においても、preconditioningが有効であることを実証した。今年度は、皮弁以外の組織移植〜遊離神経移植モデル、腸管移植モデルについてischemic preconditioningの有効性を検討した。 1)遊離神経移植モデルでの検討 SD系ラット坐骨神経の遊離神経移植モデルを作成した。20分の栄養血管のクランプ、40分の血流再開後に8mmの坐骨神経を切除し、再び元の位置に移植するischemic preconditioning群と前処置なしに8mmの坐骨神経を切除し、再び元の位置に移植するcontrol群を比較した。移植後の1週間の時点でのdegenerated myelinated axonは有意にischemic preconditioning群で少なく、ischemic preconditioningが急性期の神経変性を軽減することが実証された。 2)腸管移植モデルでの検討 SD系ラット空腸5cmを一対の腸間膜動静脈からの分枝を栄養血管として挙上し、10分の栄養血管のクランプ、20分の血流再開後に元の位置に腸管吻合し移植するischemic preconditioning群と前処置なしに5cmの空腸を同様の栄養血管とともに挙上し、再び元の位置に移植するるcontrol群を比較した。しかしながら、両群とも腹腔内の炎症症状が著名に現れ、ischemic preconditioningの効果の有無を比較しうる所見が得られなかった。 以上より、ischemic preconditioningは、皮弁以外の組織移植、すなわち遊離神経移植モデルにおいても虚血にともなう組織障害を軽減することがラットモデルで確認された。しかしながら、腸管移植に関しては、さらに適切なモデルでの検討が必要と考えられた。
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