マウス臼歯歯胚の器官培養下歯根形成過程に関して、本年度はInsulin-like Growth factor-I(IGF-I)の影響について生後5、10、15、20日齢マウス歯胚を用いて検討した。我々が考案した無血清培養系で各歯胚を4、7、14日間培養し、エポキシ樹脂に包埋、2μm厚の連続切片を作成した。【結果】歯根形成期の生後5、10、15日齢の歯胚を4日間培養すると、ヘルトヴィッヒの上皮歯根鞘(HERS)にIGF-I添加群と無添加群間でそれぞれ差が見られた。中でも生後5日齢歯胚の差が顕著で、IGF-I添加群は無添加群に比べHERSが長く、またanti-IGF-I添加群では無添加群と同様短かった。また添加群でHERS細胞が立方型を呈するのに対し、無添加群では扁平である傾向も見られた。human Growth Hormone(hGH)の影響は現在検討を進めている。一方、生後20日齢-培養4日ではIGF-I添加群で塊状のマラッセの残存上皮細胞が根尖部付近に多数見られ、その数をカウントし無添加群と比較すると有意に増加していることが分かった。またhGH添加群はこれまでのところ、そのような傾向は観察されていない。【まとめ】HERSに対するIGF-Iの効果がその抗体添加で阻害されたことから、少なくともIGF-Iは有細胞セメント質形成だけでなく、HERSの分化にも関係することが示唆された。またマラッセの残存上皮形成に対する影響がIGF-IとhGH両因子で異なることから、各因子が異なる作用機序を持っている可能性が考えられる。いずれにしてもセメント質形成のみならず、歯根形成期の細胞分化にIGF-Iが大きく関与していることが示唆された。
|