膜結合型トランスフェリン様蛋白(MTf)はコンカナバリンA(ConA)結合蛋白として軟骨細胞から精製されてきた蛋白で、正常成体組織ではほぼ軟骨特異的に高発現している。MTfはトランスフェリンと類似の構造を有するが、C末端部分でグリコシルホスファチジルイノシトールアンカー(GPIアンカー)を介して細胞形質膜と結合している。ConAは軟骨分化を強力に促進することが知られており、MTfはConAの作用を仲介する蛋白の一つと考えられる。そこで、軟骨分化に対するMTfの作用を明らかにするために、以下の実験を行った。 軟骨分化能をもつATDC細胞に全長のMTfおよびGPIアンカー結合領域を欠くMTf(MTf-GPI)を強制発現し、軟骨分化に与える影響について解析した。その結果、全長のMTfを発現した細胞ではコントロールの細胞と比較して、noduleの形成が早く、マトリックスの合成が促進していた。一方、MTf-GPIを高発現した細胞では軟骨分化が抑制されていた。また、MTfに対するアンチセンスS-オリゴマーを用いた実験では、ウサギ肋軟骨初代培養細胞の軟骨への分化が抑制され、マトリックスの構成分子であるウロン酸量が約30%低下していた。 これらの結果から、MTfは軟骨細胞のマトリックスの蓄積を増強し、軟骨の分化に関与していると考えられる。また、GPIアンカーを介したMTfの細胞膜上への局在がMTfの軟骨分化促進機能に必須であると考えられる。
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