ラット下顎切歯の動きは全身血圧の変動に伴って変化することが判明している。しかし両者は常に比例しているわけではないことが確認されており、切歯の動きに対しては、全身血圧の変動よりも歯髄や歯根膜といった局所の血圧や血流量の変化が影響を与えている可能性が考えられる。そこで今回、切歯萌出機序解明の手掛かりを得るために、歯の動きと同時に歯髄血流量及び全身血圧を測定した。 実験には体重約390gの雄性ウィスター系ラットを使用した。人工呼吸器を介して1.1%の濃度のハロタンを含む空気を吸入させることによって動物を麻酔した。ラット下顎切歯歯髄血流量は今回購入した非接触型レーザー血流計、下顎切歯萌出率は非接触型変位計、正中尾動脈圧は圧力トランスデューサーを用いて20時間にわたり連続的に測定した。測定期間中は、保温器を用いてラットの直腸温度を37℃に維持した。 ラット下顎切歯歯髄血流量は、測定開始時には156±49(ml/100g/min)であったが、測定開始5時間後まで徐々に低下(約110ml/100g/min)した後、12時間後まで徐々に上昇(約160ml/100g/min)し、その後再び低下した。測定開始20時間後の歯髄血流量は125±66(ml/100g/min)であった。また、歯髄血流量と同時に測定した全身血圧(測定開始時、83±11mmHg)も歯髄血流量と類似した変動を示した。今回得られた20時間での萌出率は432±129μmであった。以上のことから、非接触型レーザー血流計を用いることにより、歯の動きや全身血圧の測定と同時にラット下顎切歯歯髄血流量の連続的な測定が可能であることが確認された。 今後は、血管作動薬を静脈内投与した際の歯髄血流量の変動を、切歯の動き及び全身血圧の変動と同時に測定し、局所血流の変動と切歯の動きや全身血圧との関連性についてより詳細に調べる予定である。
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