本年度は、インビボでのイオノトロピック型グルタメートアゴニストであるN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)シグナルに応答する転写制御因子の検索を、特異的プローブに対するDNA結合能を指標として試みた。NMDAをマウス腹腔内に投与2時間後の時点について橋・延髄より細胞核抽出液を調製し、その細胞核抽出液中のロイシンジッパー型転写制御因子の一つであるActivator protein-1(AP1)のDNA結合能をポリアクリルアミド電気泳動法により測定した。その結果100mg/kgの用量では、約50%の有意なAP1プローブに対するDNA結合能増強が観察されたのに対して、AP1同様ロイシンジッパー型転写制御因子であるcAMP response element binding protein(CREB)とc-MycのDNA結合能には、いずれもNMDA投与に伴う有意なDNA結合能の変動は認められなかった。用量を50mg/kgにした場合には、いずれの転写制御因子にもNMDA投与に伴うDNA結合能の著明な変動は見られなかった。なお、NMDA50および100mg/kgはともに非けいれん誘発量であるが、けいれん誘発量(130〜150mg/kg)を投与した場合には、ほとんどのマウスがけいれん発作を起こした後、死亡した。上記成績はNMDAシグナルに対して橋・延髄内AP1が選択的に応答している可能性を示唆するものと思われる。また次年度は、他のイオノトロピック型グルタメートアゴニストであるカイニン酸シグナルに応答する橋・延髄内転写制御因子を探索し、NMDAシグナルとの比較検討を行う。さらに、培養三叉神経節あるいは培養歯髄細胞内転写制御因子についてもNMDAシグナルおよびカイニン酸シグナル応答性の検索を行う予定である。
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