研究概要 |
研究代表者らの開発した扁桃投与法によって,S.mutans死菌体を扁桃投与すると,菌種特異性と菌体凝集能の高いS.mutans特異的唾液SIgAが誘導され,S.mutansのエナメル質小片への付着を阻害することが確認された.しかし,扁桃投与法によって誘導された唾液SIgAに,実際の生体における齲蝕予防効果があるか明らかになっていない.このため,扁桃投与法でウサギにS.mutansと同様にヒトに齲蝕原性を示すS.sobrinus死菌全菌体を免疫し,特異的な唾液SIgAを誘導した.このウサギの口腔内へのS.sobrinus生菌を滴下し,実験的齲蝕の予防効果を,従来の経口(胃内)投与法および筋注投与法と比較した. 扁桃投与法で免疫したウサギの抗S.sobrinus唾液IgA量は,経口投与法の4倍,筋注投与法の10倍で,有意に多かった.全ての免疫されたウサギの血漿IgAは,非免疫のウサギより有意に高かった.これらのウサギの口腔内へのS.sobrinus生菌を滴下したところ,非免疫のウサギでは歯面の約半分の面積に齲蝕が生じた.筋注投与法で免疫したウサギでは,有意の齲蝕予防効果は認められなかった.扁桃投与法で免疫されたウサギでは,齲蝕面積は非免疫のウサギの25%,経口投与法で免疫されたウサギの34%あった.このことから,扁桃投与法は従来の免疫法よりも有意に高い齲蝕予防効果を示すことが確認された.また,このとき口腔に定着したS.sobrinus生菌数も,ほぼ齲蝕面積に比例し,扁桃投与法で免疫されたウサギで最も少なくなっていた. これらの結果から,扁桃投与法は従来の方法よりも齲蝕予防効果が高く,齲蝕予防ワクチンの投与法として有効であることが示された.
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