強い骨吸収作用を有する副甲状腺ホルモン(PTH)は、骨芽細胞のPTH/PTHrP受容体(PTHR)を介して作用を発現する。一方、成長因子であるインスリン様成長因子(IGF)-Iは骨形成を促進することが知られている。本研究では、ラット骨芽細胞様細胞株であるUMR106を用いて、IGF-IのPTHR遺伝子転写への影響とその制御機構を解析すると共に、転写レベルだけでなく受容体タンパク質の機能との関連についても検討した。UMR106を、IGF-Iを添加して5分間〜48時間培養した。PTHR遺伝子転写制御の解析は、mRNAおよびhnRNAを測定することにより行った。PTHRタンパク質発現制御の解析は、生理的に活性な受容体量をPTH刺激時のアデニル酸シクラーゼ活性を測定することで、また細胞表面の受容体数をBinding Assayにより測定した。さらに、IGF-Iで活性化されるMAPキナーゼの活性を測定した。結果は、IGF-I処理によりPTHRmRNAレベルは大きく低下した。この作用は、MAPキナーゼ経路の阻害剤であるPD98059の前処理により抑えられた。また、IGF-Iは生理的に活性な受容体量および細胞表面の受容体数を減少させたが、PD98059はIGF-Iによるこれらの作用も阻害した。IGF-IはPTHR hnRNAレベルを低下させたことから、mRNA合成速度を抑制することが示された。しかし、mRNA合成阻害剤であるDRB処理はIGF-Iの作用に影響を与えなかったので、IGF-IはPTHRmRNAの安定性には影響をおよぼさないことが示された。さらに、タンパク質合成阻害剤であるCycloheximideは、IGF-IによるPTHR転写抑制効果を完全に消失させた。これらのことから、骨芽細胞において、IGF-Iは、MAPキナーゼ経路を介して導入されるシグナルによって新規に合成されるタンパク質の作用を介してPTHR遺伝子の転写速度を抑制することが示唆された。この転写調節タンパク質のPTHR遺伝子5'上流領域への作用を検討するために、ラットゲノムライブラリーからPTHR遺伝子をクローニングし、その転写開始点から上流約2.1kbの塩基配列を決定した。
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