歯科容レジン材料の主成分であるBis-GMAが、女性ホルモン(エストロゲン)類似作用を示すBisphenol A(BPA)から合成されているため、歯科用レジンに微量のBPAが残留し、男性生殖機能に悪影響をおよぼす可能性のあることが指摘されている。しかし、レジン材料のエストロゲン様活性をバイオアッセイにより検証した報告が皆無であるため、この指摘に対する明確な見解は国内外を通して得られていない。 本研究では、レポーター遺伝子法と呼ばれるin vitroのバイオアッセイにより、歯科用レジンのエストロゲン様活性の有無を検討した。さらにHPLCおよびGC/MSを用いて、この活性発現に関与した化学物質について検討を加えた。 実験の結果、すべての被験材料からBPAは検出されなかったが(検出限度値:100pg)、2種の米国製シーラントに5μg/ml以上の濃度でエストロゲン様活性が認められた。この2種のシーラントからは、BPAと同じ250nM以上でエストロゲン様活性を示したBisphenol A dimethacrylate(Bis-MA)がそれぞれ約4(w/w)%検出され、これらはBis-MAの活性発現濃度を上回るものであった。検出限度値以下のBPAはエストロゲン様活性を示さなかったため、2種のシーラントの活性発現に関与したのはBPAではなく、Bis-MAであることが明らかとなった。 疎水性モノマーのBis-MAは、材料の耐久性向上のため一部のレジンに添加されているが、歯科材料への使用は完全に排除されるべきと考える。一方BPAに関しては、歯科用レジンの女性ホルモン様作用への関与が本研究では認められず、またBPAの低用量理論が最近否定される傾向にあることから、仮に検出限界値以下のBPAがレジンに混入していたとしても、男性生殖機能に悪影響をおよぼす可能性は極めて少ないと考えられる。
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