今回我々は、根尖病巣の進行や治癒に付随して起こる骨改造に着目し、肉芽組織内に存在し、破骨細胞や骨芽細胞の分化を制御していると推測される細胞について多角的解析を行うために、九州大学歯学部附属病院保存科外来受診者で、実験への協力が得られた患者より摘出した歯根肉芽腫の酵素組織学的検討および肉芽組織の培養系の確立を行った。(1)摘出された肉芽組織のパラフィン切片を作製し、破骨細胞または骨芽細胞のマーカーの1つとされる酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ(以下TRAPと略す)あるいはアルカリ性フォスファターゼ(以下ALPと略す)にて酵素染色を行った。その結果、TRAP陽性の多核細胞は組織内にほとんど確認できなかったが、一方TRAP陽性の単核細胞が多数存在し、さらにその部位に一致してALP陽性の単核細胞が局在していた。このことから、肉芽組織内には骨原性の細胞が存在し、骨吸収系の細胞の分化に関与し、さらに吸収された歯槽骨の石灰化にも携わっていることが示唆された。そこで、骨形成系の細胞の存在を確認するために(2)摘出された肉芽組織の細胞培養系の確立を行った。得られた組織は膿を含み細菌感染が起こっており、まずその駆逐が重要な課題となった。そのため、組織は水中で抗生物質の存在下に置かれ、十分に殺菌処置がとられた。それから通常の培養へと進み、細菌感染が発生していないことを確認しながら、遊走してきた細胞を継代培養していった。その結果、3種類のヒト歯根肉芽腫由来の線維芽細胞様細胞株を得ることができた。これらの細胞は培養当初において、ALP活性を全く示さなかったが、培養期間が進行し細胞数が増加するにしたがい、強く発現してくる性質を有していた。このことから、得られた細胞力がin vitroで増殖分化していくことが、明らかになった。今後、得られた細胞株の石灰化能について光顕及び電顕下にて行っていこうと考えている。
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