申請者が交付科学研究費の給付によりおこなった研究とその成果を以下に示す。 ポリアルケエノートセメントと歯質との接着機構における塩生成反応とこれに関与する低有機酸について検討することを目的として、液成分の酒石酸配合比を重量比で5%、10%、15%となるよう調整した市販カルボキシレートセメント(酒石酸配合比1%以下)を試料として、抜去牛歯から作成したエナメルブロックとの接着試験をおこなった。試験方法は剪断接着破壊試験とし、破壊界面について光学顕微鏡、SEMによる観察をおこなった。酒石酸を添加しなかった試料においては、界面の凝集破壊は接着界面面積の5%以下であったが、配合比10、15%の試料では接着面の約80%に凝集破壊面が生じていた。特に配合比10%の試料では破壊面のセメント側に歯質エナメルの破砕物が認められ、歯質セメント間の強固な結合が認められた。次に配合比10%の試料をエナメルブロック表面に塗布し硬化させた試料を用意し、表層より深部へ順次、緩衝液中でエッチングした表面の赤外吸収スぺクトルをFT-IRにて連続的に測定し、セメント歯質界面の化学状態について検討したところ、界面から歯質方向へ20μm程度まで600cm-付近の燐酸根の吸収が減少している層が認められた。さらに、歯質表層とセメント内部全般に酒石酸末添加では認められないカルボン酸塩由来の吸収ピーク(1590cm-付近)が認められた。ポリアルケエノートセメントの歯質接着機構は最初にセメント練和泥中のポリアクリル酸によって歯質が脱灰、溶解され、これがセメント成分と反応し、接着力を発揮することはすでに報告されているが、今回の検討から燐酸基とカルボキシル基を持つ塩からなる反応生成物の歯質とセメント双方への内部拡散が接着に関与していることが判明した。また、このポリアクリル酸-歯質燐酸、Ca反応系にはその関与の詳細については不明であるが、低有機酸、特に酒石酸の存在が不可欠であることも判明した。
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