研究概要 |
精神的ストレスが咀嚼筋の筋活動量あるいは筋血流量を介し,咀嚼筋の疼痛の発現および増悪に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし,精神的ストレスの負荷およびその解放後の疼痛,筋活動量および筋血流量の変化を経時的に検索した.本年度は,顎機能異常およびその既往が認められない健常有歯顎者のみを被験者として用い,以下の実験を行った.なお,被験者には本研究の意義,内容について事前に十分な説明を行い,理解および同意を得た.実験は,まず被験者を30分間安静に保ち,その後,鏡映描写試験(mirror drawing test)を用いて精神的ストレスを負荷し,1.咬筋の筋活動電位,2.咬筋の筋血流量,3.精神緊張状態の指標とするための血圧,脈拍および精神性発汗量,4.疼痛の変化,についてストレス負荷30分前から解放後30分まで連続的に同時測定した.その結果,以下のことが明らかとなった.1.鏡映描写試験の開始直後より,血圧および精神性発汗量の増大が観察された.さらにこれらの値は,試験の終了に伴い,試験開始前の値に速やかに減少した,2.精神的ストレスの負荷により,咬筋の自発放電量は増加する傾向が認められた.3.咬筋の筋血流量は増加したもの,減少したもの,あるいは変化しないものなど種々のものが観察され,一定の傾向を見いだせなかった.4.疼痛の変化は認められなかった.以上より,鏡映描写試験によって負荷された精神的ストレスは,被験者の咀嚼筋の筋活動量に,直接に,影響を及ぼすのみではなく,自律神経系を介した咀嚼筋の筋血流量の調節にも影響を及ぼしていることが推察された.
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