平成10年度は主に冷間加工性の改善を目的とする研究を行った。まず、添加するアルミニウム、バナジウム量が、合金の硬さ、および冷間圧延性に及ぼす影響について検討した。アルミニウムに関しては4から6重量%までの範囲で添加量が増えると硬さが増加することがわかった。一方、バナジウムに関しては16から22重量%の範囲では添加量20重量%で硬さがもっとも小さくなるとの結果が得られた。しかし、合金の硬さと冷間圧延性との間には明確な相関は見い出されず、硬くても非常に高い冷間圧延性を示す合金も得られたことから、冷間加工性は単純に合金組成に依存するものではないと推定された。次に、冷間加工後に生じた加工歪を除去するために行う熱処理による合金の硬さの変化について検討した。500℃以下での熱処理では合金が大きく硬化し、熱処理後には顕著な脆性を示したため、合金を変形させることが困難であった。これまでのチタン合金の熱処理に関する知見から推定すると、この顕著な脆化はオメガ相の形成によるものと推定され、この相の形成を抑制することが熱処理性を向上させる上で重要な項目と考えられた。一方、500℃以上での熱処理では、熱処理時間の制御により合金の脆化を抑制することができ、特に850℃以上で容体化熱処理を行った合金では、熱処理後の合金変形能は十分に確保できることがわかった。以上の知見から、冷間加工性の確保には組成の最適化よりも熱処理の最適化が効果的だと考えられた。 一方、今年度の研究では新たな問題点も明らかになった。すなわち、同組成の合金でも非常に硬い合金が作製されることが多く、この場合、冷間加工は問題なく行えても形状記憶特性が発現しないことがわかった。この原因は現在のところ不明であるが、気体元素などの微量不純物の影響などが考えられ、この問題点の解決が本研究の遂行に非常に重要であると考えられた。
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