平成10年度の研究結果から、同一組成の合金でも形状記憶特性が発現するものとしないものとが存在したことから、平成11年度は形状記憶特性発現に影響する因子について検討した。まず、平成10年度までに作成した試料と同じ組成の試料を改めて作製した結果、形状記憶特性をほとんど示さなかった。これらの試料は、形状記憶特性を示す試料に比べて硬さが大きい傾向が認められたため、試料中の不純物の影響を考え、高純度チタン、高純度バナジウムを溶解原料として試料を作成したが、試料の硬さは減少せず、形状記憶特性も発現しなかった。次に熱処理による試料硬さの変化を検討したが、前年度までと同様の熱処理により、同様の硬さの変化を示すことが確認できたものの、いずれの場合も形状記憶特性を示す試料よりも硬さが大きく、熱処理の影響で形状記憶特性が発現していないとは考えられなかった。 次に、前年度まで試料作成に用いていたアルゴン雰囲気中銅ハース上アーク溶解法を変更し、磁気浮遊溶解法で試料を作成した結果、形状記憶特性を示す試料が作製できた。硬さ試験の結果も前年度までに形状記憶特性を示していた試料と同程度であり、試料の硬さと形状記憶特性発現との間には密接な関係があると考えられた。しかしSEM等で観察した結果、異なるプロセスで製作した試料間で結晶粒径や組織に明確な相違は認められなかった。また、磁気浮遊溶解法で作成した試料でも形状記憶特性を示さない試料もあり、微量の気体不純物や組成の不均一性によって特性が大きく異なっている可能性が考えられた。 一方、形状記憶特性を示す試料のDSC分析を行ったところ、昇温時、降温時ともに比熱変化のピークが全く観察されず、相変態が非常に広い温度域でゆっくりと進行していると考えられた。相変態にともなう回復ひずみの大きさがあまり大きくないことも、ピークが不明瞭である原因と考えられた。
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