科学的データに基づく治療のゴール設定は、歯科医療の臨床上、非常に重要である。そのため顎顔面補綴治療においても、顎義歯装着患者の主観評価や、形態、機能検査などの客観評価が注目されている.しかし現在、総合的な客観的評価法は確立されておらず、顎顔面補綴治療のゴールは未だ漠然としている. そこで本研究は、顎顔面補綴装置装着前後に各種形態評価および機能評価を行い、顎顔面補綴装置による形態的、機能的改善度の基礎データを収集し、評価方法を確立することを目的とした。今年度は、まず以下の通りの機能評価項目を設定した。 1. 嚥下機能;水飲みテスト(窪田ら) 2. 発音・構音機能;・100音節明瞭度、・ソフト/ハード・ブローイングテスト 3. 咀嚼機能;・咀嚼可能食品アンケート(Satohら、1989)、・ガム咀嚼(ロッテ社製試作ガム) ・総咬合力(東京歯材社製デンタル・ブレスケール)と健側、患側のハランス ・かみぐせ側と健側の一致率(石幡ら) 次に、当大学歯学部附属病院第二補綴科および特殊歯科総合治療部に登録されている上顎骨欠損患者の中から、本研究の主旨を説明し、これに対する同意と協力が得られた者14名を対象に、上記の機能検査を行った。また、患者の顎義歯に対する満足度スコアも合わせて算定し、顎義歯による機能改善度を検討した結果、以下の結論を得た. 1. 嚥下機能評価では、異常や異常の疑いがある者の41.7%に改善がみられた. 2. 発音・構音機能評価では、単音明瞭度検査、開鼻声検査、ブローイングテストにおいて有意な改善が確認できた。 3. 咀嚼機能評価では維持歯の存在は、最大咬合力、健側の咬合接触面積に影響するため、有歯顎と無歯顎は分けて評価すべきことがわかった. 4. 顎義歯により通常の総義歯と同程度の満足度が得られた. 以上より、上述の客観的評価法は顎顔面補綴装置による機能改善の評価や、治療ゴールの設定に有用であることが示唆された。
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