研究概要 |
咀嚼に関与する唾液の役割は極めて大きく,特に,義歯装着者にとっては,その量と性状が維持ならびに装着感に大きな影響を及ぼす.しかし,高齢者においては,加齢に伴う唾液分泌量の減少に加えて,種々の慢性疾患や種々の薬剤の服用に起因してさらに減少するため,口渇を訴える患者が少なくない. 本研究では,唾液分泌量の咀嚼機能に及ぼす影響に関する基礎的データを得ることを目的として,顎口腔系に異常を認めない本講座教室員のボランティア10名を被験者として,唾液分泌抑制作用を有する硫酸アトロピン0.5mgの服用前後における10分間安静時唾液分泌量,Kapurらの方法に準じたピーナッツを試験食品とする篩分法による咀嚼効率(10mesh残留量),ピーナッツ3g自由咀嚼時における嚥下閾に至るまでの咀嚼時間および咀嚼回数の測定を各々行い,比較・検討した.得られた結果は以下の通りである. 1. 被験者10名中6名には硫酸アトロピンの経口投与により,約60分後に実験的口渇状態(投与前分泌量の約33%)を惹起させることが可能であった. 2. 硫酸アトロピンの経口投与により唾液分泌量が減少した6名の被験者においては,硫酸アトロピン投与後に咀嚼効率の有意な低下が認められた(P<0.01). 3. 自由咀嚼時の嚥下閾に至るまでの咀嚼時間および咀嚼回数には,各被験者に一定の傾向は認められず,また,投与前後における差も認められなかった. 以上の結果から,口渇の程度を客観的に評価する指標として10分間安静時唾液分泌量が有効であること,また,唾液分泌量が咀嚼機能に大きく影響を及ぼすことが示唆された. 平成11年度では,最も口渇が問題となる無歯顎患者に対して,口渇の程度とそれに伴う咀嚼機能の障害程度についてのアンケート調査(主観的評価)と10分間安静時唾液分泌量および篩分法による咀嚼機能評価(客観的評価)を併せて行い,口渇患者への臨床的対処法を確立する予定である.
|