Mo5における大脳基底核の役割については、解剖学的に黒質網様体(SNr)、脚内核から三叉神経運動核(Mo5)に同側2シナプス性の投射経路が確認されており、特にSnrはMo5への脱抑制作用が推測されているが、これを裏付ける電気生理学的報告はない。本年度はまずこの点を明らかにする目的で麻酔下ラットのSNr背外尾側部に同心円電極(外径0.3mm)を刺入し電気刺激を加え(1.5s間隔)、同側Mo5細胞をガラス管電極(pontamin sky blue:抵抗15MΩ)を用い細胞外記録を行ない、順行性刺激応答を記録。刺激後のMo5細胞の自発発火を100〜150回加算しPSTHを作成、刺激効果について検討した。その結果、刺激部位が的確であったものにおいて、0.2msecの持続時間、0.3mAの刺激強度の刺激閾値で潜時約3msecの興奮性効果がみられた。特に刺激効果がみられた細胞はMo5の背外側に多くみられ、これらは報告されているmyotopographyより、閉口筋支配細胞であることが推測された。解剖学的にMo5に投射するSNr細胞はGABA作動性であり、Mo5近傍のpremotor neuronを介するMo5への投射が確認されている。またSNrから橋外背被蓋への単シナプス順行性刺激の潜時は約1msecと報告されている。少数であるが、今回の検討結果よりSNr支配、Mo5投射のpremotor neuronは抑制性であり、Mo5に対するSNrの脱抑制作用を裏付ける結果と推測された。しかし、SNr刺激部位は大脳脚に近接しており、現在のところcurrent spreadの影響も否定できず、大脳脚または皮質運動野への直接刺激に対するMo5の反応効果との比較が必要である。本年度は以上の点を踏まえ、データを蓄積し、さらにSNrへのGABAおよびその拮抗薬の持続注入によるMo5の反応変化について検討し、オーラルジスキネジアなど大脳基底核症状の病態解明を図る予定である。
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