本研究期間において行った研究の詳細は以下に示す。 1. 培養口腔粘膜上皮へのレトロウイルスを用いた遺伝子導入法の確立 培養口腔粘膜細胞に対しレトロウイルスベクターを用いて遺伝子導入を行った。導入した遺伝子はマーカー遺伝子であるLacZ遺伝子を用いた。まずウイルス上清による導入とウイルス産生細胞による導入の導入効率を検討した結果、共に5-10%の高い導入効率を示したが有意差はなく、生物学的安全性の観点よりウイルス上清による導入法を採用した。さらに、われわれが移植組織として作製している培養表皮はシート上の構造を呈することが特徴である。しかし、従来の培養法では遺伝子操作の期間中に上皮細胞が終末分化を来してしまい、重層化せずシート状の構造を得ることができない。そこで、一旦低カルシウムおよび無血清のKGM培地を用い遺伝子導入およびセレクションを行うことにより、遺伝子導入された細胞のみで構成される培養口腔粘膜上皮シートが完成した。これらの結果は通常の上皮細胞増殖培地およびKGM無血清培地を組み合わせ用いたことに起因するもので、本期間の代表的研究成果といえる。 2. 遺伝子導入培養粘膜上皮のヌードマウスへの移植 1によって作製された遺伝子導入細胞のみによる培養粘膜上皮シートを、ヌードマウス背部皮弁内側に移植し、その生着および移植後の遺伝子発現を見た。移植した細胞はマーカー遺伝子を導入した細胞であったが、約4週間の観察期間中持続的に遺伝子発現が観察された。さらにヒト凝固第IX因子遺伝子を同様に導入した上皮シートを移植し、その発現をマウス血液中のヒト第IX因子抗原量にて観察した。この実験においてもマウス血液中に有意にヒト第IX因子量が増加し遺伝子発現を認めた。これらの結果は現在HumanGene Therapyに投稿中で掲載内定を得ている。
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