口腔扁平上皮癌における細胞外基質に関する研究では、細胞型フィブロネクチン(cFN)と血漿型フィブロネクチン(pFN)の口腔扁平上皮癌における分布に相違が認められた。pFNが広く瀰慢性に間質に存在するのに対してcFNは一部の癌胞巣周囲に局在する傾向があった。そこでcFNの細胞接着因子としての性状を探る目的で過去10年120検体の癌患者リンパ節転移とcFNの局在について検討した。その結果cFNの発現とリンパ節転移には有意な相関は認められなかった。口腔扁平上皮癌転移能がcFNの発現のみではうまく説明できないため、さらにFNレセプターであるインテグリンの局在を正常上皮細胞、癌細胞について検討することとした。インテグリンα5β1はインテグリンのなかでも唯一FNとのみ結合することよりインテグリンα5β1の局在を検討した。しかしながらインテグリンα5β1は上皮細胞の胞体に多く局在するものの、上皮系細胞の性状とその発現に特別な関連を示しておらず、またcFNと特異的に結合し存在する事については組織標本上での証明はできなかった。そこで接着因子としてさらにE-カドヘリンやCD44の発現を調べこれより転移能の検討をした。その結果CD44は正常歯肉の基底部付近に強陽性を示す一方で癌胞巣の基底部付近に弱陽性を示した。このことは上皮は癌化にともなってCD44の発現を減少させるとも考えられた。そこでCD44の単位重量あたりの発現量の対比を正常歯肉対癌胞巣について測定したところ常に正常歯肉での発現量のほうが多いことがわかった。一方癌化との関連が強くいわれるvariant exon 6の挿入については摘出標本mRNAからのダイレクトシークエンス法により検索した。この結果検索した範囲ではvariant exon 6の挿入はなくこのエクソン挿入は癌化および転移能獲得のための必要条件でないことが証明された。
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