本年度は、まず術前の下顎前突症患者ならびに下顎非対称症患者における顎運動機能の特徴を明らかにするため、6自由度顎運動測定システムを用いて各種顎運動時における切歯および下顎頭の3次元動態を分析検討し、定性的かつ定量的な解析を行うとともに正常咬合者の顎運動との比較検討を行った。被験者は下顎前突症患者14名および下顎非対称症患者9名で、対照として顎口腔系機能に異常を認めず、個性正常咬合を有する10名を用いた。測定は被験者に最大開閉口運動、限界運動を行わせ、これら顎運動時における切歯点ならびに下顎頭点の動きを3次元的に同時記録した。その結果、最大開閉口運動における切歯点実運動距離は下顎前突症が54.30mm、非対称症は51.78mmといずれも対照よりも有意に大きな値を示す一方、下顎頭点では下顎前突症が14.65mm、また非対称症の偏位側下顎頭では16.97mm、非偏位側下顎頭では14.14mmといずれも対照よりも小さな値を示した。前方および他方滑走運動における下顎頭点実運動距離は下顎前突症が各々7.34mm、7.56mmで非対称症の偏位側下顎頭では8.07mm、8.37mm、非偏位側下顎頭では6.18mm、6.49mmと対照の10.7mm、10.39mmと比較して有意に小さい値を示した。以上のことから下顎前突症患者は大きな開口距離を示す一方で、下顎頭における運動距離は小さく、また前方、側方滑走運動においても下顎頭の運動距離が少ないことから回転成分の多い開閉口運動をするものと思われた。また下顎非対称症患者では最大開閉口運動および前方、側方滑走運動における下顎頭運動距離は正常咬合者のそれよりも小さく、さらに非偏位側下顎頭では偏位側下顎頭よりも滑走運動の小さいことが明らかになった。平成11年度は顎変形症患者の術後の顎運動を経時的に記録分析し、顎矯正手術前後の顎運動機能の変化について検討を加える予定である。
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