頭頸部癌培養細胞におけるP糖蛋白の発現状態と、その細胞不均一性について明らかにするため、臨床材料より得た口腔扁平上皮癌のHepd、HAおよび唾液腺癌細胞のHSG、HSYを用い、次の実験を行った。1.限界希釈により各培養細胞より10株ずつクローンを分離した。2.各クローンを5x10^4個/mlの濃度でまき、ビンクリスチン(VCR)を一定濃度で含む増殖培養液に交換し、72時間後の生存数より算定した50%増殖抑制濃度(IC_<50>)は、Hepdで3.0〜19.9ng/ml、HAで0.96〜5.3ng/ml、HSGで2.4〜8.3ng/ml、HSYで1.63〜8.0ng/mlに分布し、20%増殖抑制濃度(IC_<20>)は、Hepdで1.3〜9.4ng/ml、HAで0.4〜4.1ng/ml、HSGで1.1〜4.0ng/ml、HSYで0.67〜4.0ng/mlに分布した。3.各クローンを5x10^4個/mlの濃度でまき、各々のIC_<20>でVCRを添加して72時間後にVCR不含の増殖培養液に交換し、72時間培養したものを1サイクルとする方法で耐性誘導した結果、3サイクル処理までにHepdで4株、HAで2株、HSGで4株、HSYで4株が死滅した。5サイクル処理まで生存した各クローンのIC_<50>は、Hepdで0.4〜2.67倍、HAで0.52〜1.8倍、HSGで0.67〜2.79倍、HSYで0.72〜3.19倍に変化した。4.VCR処理前と5サイクル処理後の各クローンにおけるP糖蛋白の発現を、電気泳動法を用いて検索した結果、VCR処理前にHepdで4株、SCCHAで1株、HSGで1株、HSYで5村にP糖蛋白が発現した。また、VCR処理5サイクル後からP糖蛋白が発現したクローンは、Hepdで3株、SCCHAで5株、HSGで5株、HSYで4株認められた。以上の結果より、口腔扁平上皮癌細胞と唾液腺癌細胞のP糖蛋白発現は、抗癌剤投与により細胞不均一性の高い細胞集団の中で、P糖蛋白発現細胞がselectionされるとともに、自然耐性と獲得耐性の双方が関与して抗癌剤耐性を示すことが明らかとなった。
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