研究概要 |
これまで困難とされてきた,歯の移動による根尖部の歯根吸収を引き起こす実験系の完成を試みた。まず,SDラット上顎臼歯を直径0.15mmの加工硬化型Ti-Niワイヤーにて約1gfから10gfの力で近遠心的に移動し,歯根尖を酵素組織化学的に観察したところ,著明な歯根吸収は認められなかった。5gf以下では,硝子様変性も認められなかった。一方,上顎臼歯咬合面にレジンを築盛し,実験的に外傷性咬合を誘発したが,こちらも歯根尖の吸収は認められなかった。ところが,臼歯咬合面にレジンを築盛して,同じTi-Niワイヤーにて歯の移動を同時に行ったところ,1週間後には一部の歯根の根尖部に著明な吸収が認められた。 これらの結果の一部は平成10年6月の第74回ヨーロッパ矯正歯科学会で発表した。 現在,実験群の根尖性歯根吸収部付近の歯根膜および歯髄組織を採取し,RNAを抽出して,RT-PCR法およびDifferential Display法を行って,歯根吸収の活性化に関与する因子および歯根吸収の抑制に関与する因子を検索している。 今後,歯根吸収調節因子が見つかれば,免疫組織化学的手法によりその組織における局在を検討し,in situ hybridization法により産生細胞の同定を行う。また,これら歯根吸収調節因子の阻害剤を用いてその機能の確認を行いたい。さらには,他の各種機械的刺激を歯の移動実験系に加え,刺激と調節因子・歯根吸収の存在との関係を明らかにして,臨床上,注意すべき機械的刺激因子についても示唆を得る予定である。
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