研究概要 |
採取唾液の培養条件を検討したところ,培養時の嫌気状態によりpHなどの測定結果が影響を受けることが判明した。そのため,より基礎的な課題としてミュータンスレンサ球菌培養に対する嫌気条件の影響を検討した。通常の静置培養とGasPak Systemによる嫌気培養,嫌気グローブボックスによる高度嫌気培養の3種の嫌気条件で種々の糖質を炭素源としてミュータンスレンサ球菌の培養を行い,pH低下速度,菌体増殖速度,非水溶性グルカン合成速度を比較した。その結果,培養時の嫌気度の高いほどpH低下速度,菌体増殖速度は速くなったが,非水溶性グルカン合成速度については菌種によってはGasPak systemでの培養でもっとも速くなることがあり,ミュータンスレンサ球菌の菌体の代謝・増殖と非水溶性グルカン合成に対する糖質利用にはある程度の独自性があることが示唆された。また,本実験により,ソルビトールがミュータンスレンサ球菌の長時間培養によりエナメル質臨界pH以下に発酵されることが菌種を問わず認められた。通常糖質の齲蝕誘発性評価の際,ソルビトールを発酵性の低いネガティヴコントロールとして用いているが,厚生省特定保健食品の検定基準に示されている20時間培養後の判定ではソルビトールが高齲蝕誘発性と評価されることが判明した。そのため,ミュータンスレンサ球菌培養試験を齲蝕誘発性評価法として用いる場合にはネガティヴコントロールとして用いる糖質を変更するか,培養時間を変更する必要のあることが示唆された。さらに,ミュータンスレンサ球菌のショ糖利用に対する各種代用甘味料の阻害作用を培養試験により評価することに対して同様の検討を加えたところ,一測定時における断面的評価では知り得ない各種代用甘味料の特性が,経時的測定結果を多重比較分析することによりさらに明瞭になることが示された。この方法により,従来より知られている代用甘味料の阻害作用は主として菌体増殖の対数増殖期に顕著であることが明らかとなった。一方,現在代用甘味料としての応用を研究中であるキシロシルフルクトシドは,菌体増殖のどの段階においても,他の代用甘味料に比べてはるかに高い非水溶性グルカン合成阻害効果を有することが認められた。
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